あの「しゃちょ~、安くして~」のテレビコマーシャルでお馴染み、夢グループの「夢コンサート」が私の住む街、北見市(北ガス市民ホール)にやってきました。
正直に告白すれば、最初はほんの「興味本位」でした。「懐かしの名歌手たちを眺めて、あの歌声にホッコリ癒やされればいいな」くらいの軽い気持ちで足を運んだのです。しかし、そこで待っていたのは、見事に期待を良い意味で裏切る、最高に熱いエンターテインメント空間でした。ただの歌謡ショーではない。そこには徹底された「ビジネスの真髄」と「プロフェッショナルの凄み」が凝縮されていたのです。
顧客視点を極めた「徹底した商売人根性」
会場に一歩足を踏み入れて驚いたのは、その徹底した物販への姿勢です。会場外のグッズ売り場には、これでもかと商品が充実しています。さらに驚くべきは、ホール内の客席通路でも、スタッフが「夢もなか」や「おみそ汁セット」を手売りしている点です。そしてそれが、信じられないほど飛ぶように売れていくのです。
よく観察して、その理由にハッとさせられました。この日の観客の大半は、60代、70代、80代のシニア層の皆さんです。足腰が少しお疲れの方にとって、わざわざ混雑するロビーの販売コーナーに並ばなくても、自分の席に座ったまま買い物ができるシステムは、究極の「親切」でありバリアフリーなのです。客層のニーズを完璧に捉えた見事な販売戦略でした。
開演前や休憩時間には、夢グループの商品紹介や、協賛企業のコマーシャルビデオがスクリーンにガンガン流れます。普通なら「押し売り感」を覚えそうなものですが、ここまで割り切って徹底されると、むしろ心地よい商売人根性として清々しささえ感じました。
無駄を削ぎ落とした「徹底したコストダウン」
実は、コンサートの当日を迎える前から、彼らの「引き算の美学」には驚かされていました。手元に届いたチケットが、よくあるデザインされた厚紙ではなく、なんと「A4サイズのコピー用紙にプリントされたもの」だったのです。これには意表を突かれました。
しかし、これもよく見ると納得しかありません。製作費を極限まで抑えるだけでなく、日時、会場、そして座席指定といった必要な情報が、これ以上ないほど「大きな文字」で印刷されているのです。アラウンド70歳、80歳の観客の皆さんにとって、これほど見やすく、紛失しにくい親切なチケットはありません。
さらにステージが始まると、生バンドの姿はなく、全員がカラオケでの歌唱。名だたる往年のスターたちがカラオケで歌うという割り切りっぷりには、最初こそ「少しショボイかな……」と感じたのも事実です。しかし、ステージが進むにつれてその違和感は完全に消え去り、「これはこれでいいな」と思わされている自分がいました。そしてトリを迎える頃には、その圧倒的なパフォーマンスの前に、カラオケであることすら完全に忘却していたのです。
石田社長と保科有里さんが魅せた「等身大の人間味」
伊藤ゆかりさん、狩人さん、保科有里さんといった豪華なステージが続いた後、満を持して夢グループの石田社長が登場しました。前置きもそこそこに、社長は自身の半生を涙混じりに語り始めます。福島なまりの、お世辞にも流暢とは言えない朴訥(ぼくとつ)とした語り口。それが不思議なほど、聴く者の心をグイグイと引き込んでいくのです。
トークだけかと思いきや、なんと吉幾三さんの『かあさんへ』を独唱。技術的に「上手い歌」かと言われれば、決してそうではないのかもしれません。しかし、感情のすべてが乗ったその泥臭くも真摯な歌声に、会場のあちこちからすすり泣きが聞こえ、私自身も深く胸を打たれて涙が溢れました。
その後、CMでお馴染みの保科有里さんを呼び込んでのデュエットタイムへ。自作されたという『夢と….未来へ』という曲が、また素晴らしかったのです。
「一度限りの人生を 夢見て夢見て生きる。もっともっと幸せになりたい もっともっと幸せになろう」
このストレートな歌詞と温かいメロディーが、不思議なほど心に沁み渡りました。歌い終えた直後、「会場の外でCD売ってます!」と満面の笑みで物販の告知に移るお茶目さも含めて、最高に愛されるキャラクターだと実感しました。
圧巻。トリを飾った千昌夫という「怪物」
そして、このコンサートの価値を決定づけたのが、トリを務めた千昌夫さんの30分に及ぶオンステージでした。正直、この30分を観られただけでも、チケット代の元は完全に取れたと確信できるほどの、凄まじいパフォーマンスでした。
『北国の春』『星影のワルツ』『津軽平野』『夕焼け雲』――日本の音楽史に燦然と輝く大ヒット曲の数々は、客席のシニア層にとって青春そのもの。79歳とは到底信じられない、地響きのような迫力ある声量と、一瞬で空気を支配する歌い方に、会場全体が息をのんで引き込まれていきました。
そして、歌以上に会場を揺らしたのが、ご本人が「寝ないで考えてきた」と不敵に笑う爆笑トークの数々です。あまりに面白かったので、その一部をここに再現させてください。
① カルボナーラの巻
岩手県陸前高田から東京に母親を呼び寄せ、一緒に暮らしていた時のこと。母親にパスタの「カルボナーラ」を食べさせたところ、いたく気に入って、近所の人たちに自慢しまくっていたそうです。 「ボラギノールっていうの食ったがよ!ありゃうまかったのう!」 会場は大爆笑。お母さん、それは痔の薬です(笑)。
② 虫歯が一本もなかった母親の巻
「やっぱり健康で長生きしたいもんだよね。私の母親は99歳で他界したんだけど、なんと虫歯が一本もなかったんだ!」 客席からは「おおーっ!」という感嘆の大歓声。そこへすかさず、 「……総入れ歯だけどね!」 これには見事にしてやられました。会場は再び大爆笑の渦に。
③ 手モミの拍手はご遠慮くださいの巻
千さんの名曲に合わせて、会場の皆さんが手拍子で大盛り上がり。最高のボルテージを迎えた間奏中、千さんが客席を見渡してポツリ。 「そこのお客さま!拍手はありがたいんですが、“手モミ”の拍手はご遠慮ください」 で、またもやドッカンと大ウケ。客席の年齢層をいじり倒す絶妙な間(ま)は、まさに名人芸です。
そんな爆笑の連続から一転、東日本大震災に関する短い、しかし心のこもったお話をされた後に歌われた『夕焼け雲』には、会場中が涙、涙に包まれました。笑いと涙のジェットコースター。これぞ、幾多のステージを潜り抜けてきた者にしか作れない、場数を踏んだ圧倒的な30分間でした。
【まとめ】時代を超えて輝く「プロフェッショナルの真髄」
世間の一部では、もしかしたら「過去のスターたちの懐メロコンサート」と片付けられてしまうことがあるのかもしれません。しかし、実際に体感したそれは、まったく違っていました。
無駄なコストを徹底的に削ぎ落として顧客の利便性に変えるビジネスの合理性。どんな環境であっても、マイク一本で観客の心を鷲掴みにして泣かせ、笑わせる演者の超一級品の技術。客席を後にする時、私の胸に去来したのは、「これぞ本物のプロフェッショナルだ」という深い感嘆の念でした。
年齢を重ねること、時代が変わることを言い訳にせず、今の自分たちにできる最高の形で目の前のお客様を120%満足させる。その泥臭くも洗練されたエネルギーに、私自身、明日からのエネルギーを猛烈にチャージしてもらった気がします。
夢コンサート、素晴らしいステージを本当にありがとうございました!







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