8月25日のブログ『「30人の壁」で会社が失う大切なものとは?組織拡大期を乗り切るマネジメント術で』は、組織の規模が30人を超えた段階で、創業期の勢いや社長個人の牽引力だけでは回らなくなり、組織的な「仕組み化」が必要になるというテーマをお届けしました。
その中で少しだけ触れた「組織の動脈硬化」というワードですが、公開後、何人かの視聴者の方から反響をいただきました。
- 「あの『動脈硬化』って、具体的にうちの会社はどういう状態のことを指すのだろうか?」
- 「もしかすると、自社もすでに始まっているのかもしれない……」
そこで今回は、この「組織の動脈硬化」をテーマに、その実態と恐ろしさ、そして改善のための処方箋を詳しく解説していきます。
最初に結論をお伝えしておきます。
この「組織の動脈硬化」という病は、「うちは今、業績も良いし順調だから大丈夫」と思っている会社ほど、静かに、そして深刻に進行しているのが特徴です。ぜひ自社の現状と照らし合わせながらご覧ください。
「組織の動脈硬化」とは何か?(人体と組織の比較)
まずは定義から確認していきましょう。
【組織の動脈硬化の定義】 社内において「情報」「意思決定」、そして社員の「熱量」の流れが悪くなり、組織全体の柔軟性とスピードが損なわれた状態。
この状態を理解するには、人間の身体に例えると非常にイメージしやすくなります。
人体で「流れるもの」の代表といえば、酸素や栄養素を身体中に運ぶ「血液」です。血管がしなやかで血液がスムーズに巡っている状態が、人間の健康の基本です。
では、「組織で流れるもの」とは一体何でしょうか?
それは、「情報・指示・決裁・資金」であり、そして何より「社員の熱量(やる気・エンゲージメント)」です。

創業期や30人未満の若い組織は、言わば「血管がピチピチ」の状態です。社長が「これで行こう!」と方針を決めれば、その日の午後には現場が動き出しているような、圧倒的な血流スピードを持っています。
しかし、会社が拡大し歴史を重ねるにつれて、人間の加齢と同じように「動脈硬化」のリスクが高まります。
人体における動脈硬化の原因が「偏食」「運動不足」「加齢」であるならば、組織における原因は「過剰な管理ルール」「前例踏襲」「官僚化」「事なかれ主義」です。これらが組織内に「悪玉コレステロール」として少しずつ蓄積していくのです。
組織の血管に溜まる「プラーク」と思考停止の恐怖
人間の血管では、蓄積した悪玉コレステロールが壁面に付着し、「プラーク」と呼ばれるドロドロとした塊(老廃物)を作ります。これが血管を徐々に狭めていきます。
では、「組織のプラーク」とは具体的に何を指すのでしょうか? 代表的な例は以下の5つです。
- 開かずの稟議(何人もの判子が必要で、決裁までに1週間以上かかる)
- 形骸化した会議(誰も発言せず、単なる報告・共有だけで終わる時間)
- 使われていない古く形骸化したルール(なぜ存在するのか誰も目的を知らない規程)
- 現場の小言や不満(吐き出されることなく内側に溜まったガス)
- 事なかれ主義の蔓延(「どうせ提案しても何も変わらない」という諦め)
これらが組織という血管の壁にベタベタとへばりついていくと、組織から「柔軟性」が完全に失われていきます。
人体の血管が弾力を失って硬直するように、組織の意思決定の関節もコチコチに固まってしまいます。現場から意欲的な新しい提案が出ても、管理層から次のような言葉で切り捨てられてしまう経験はないでしょうか。
「う〜ん、言いたいことはわかるけど、前例がないからね」 「気持ちはわかるけど、今さら当社が乗り出してもね……」
これはまさに、組織の「思考停止(フリーズ)」状態です。
変化や挑戦を拒絶するため、短期的には大きな失敗を防げるかもしれません。しかし、その代償として「挑戦」も「大きな成長」も一切望めなくなってしまうのです。
突然訪れる致命的トラブル:「脳梗塞」と「心筋梗塞」
「組織の動脈硬化」の最も恐ろしい性質、それは「初期症状(痛み)が全くない」という点です。まさに医学界で言われる「サイレント・キラー(静かなる殺し屋)」そのものです。
「今月も売上目標は達成しているし問題ない」 「社員もみんな大人しく指示通り働いている」
そうやって放置していると、ある日突然、組織に致命的なトラブルが襲いかかります。人命に関わる「脳梗塞」や「心筋梗塞」と同じ現象が、会社の中で発生するのです。
① 組織における「脳梗塞」= 経営陣の判断麻痺
組織における「脳」は経営陣です。
血管(報告・連絡ライン)が詰まっていると、現場で起きている異変や市場の変化という重要な情報が、経営陣(頭脳)まで届かなくなります。
経営陣が現場の深刻な状況を把握した時には、すでに事態が手遅れになっているケースです。途中の管理職が持つ「事なかれ主義」というプラークによって、現場の挑戦や危機の兆候が途中で抹殺されてしまい、経営陣は「うちの社員は誰も提案してくれない」と勘違いすることになります。
意思決定が致命的に遅れ、千載一遇の事業チャンスを逃してしまうのも、この「経営判断の麻痺」が原因です。
② 組織における「心筋梗塞」= エース社員の連鎖離脱
さらに恐ろしいのが、組織における「心筋梗塞」です。
心臓の冠動脈が詰まると、ポンプ機能が停止して人は倒れます。組織において心臓のポンプ役割を果たしているのは、現場で一番愚直に、熱量を持って組織を動かしている「優秀なキーマン(エース社員)」です。
社内の風通し(血流)が悪く、無駄なルールや過剰なプラークに最も強いストレスを感じているのは、実はこうした優秀な人材です。
彼らは不満を怒鳴り散らすこともなく、ある日突然、静かに「お話しがあります」と辞表を提出して去っていきます。
一番のポンプ役を失ったことで組織全体が機能不全に陥り、それを皮切りにエースの後を追うような「連鎖退職」が発生します。退職する前日まで「表面上は健康な顔」をしているのが、組織の動脈硬化の本当の恐ろしさなのです。
組織の動脈硬化を防ぎ・改善する「3つの処方箋」
では、この静かなる恐怖に対抗するために、経営者やリーダーは何をすべきでしょうか?
人体の動脈硬化予防に「減塩」「適度な運動」「禁煙」が効果的であるように、組織にも「3つの生活習慣病対策」が存在します。今日から実践できる処方箋をご紹介します。
処方箋①【減塩】= ルールの減量化
企業は放っておくと、問題が発生するたびに新しい「規則」や「承認フロー」を増やしたがる習性があります。これが組織における「塩分の摂りすぎ」です。
- 月に1度、使われていないルール、形骸化した会議、意味のない報告書を洗い出して廃棄する。
- 「新しいルールを1つ作るなら、無駄な会議を2つ減らす」という基準を持つ。
まずは引き算の思考で、組織の「減塩」を図ることが第一歩です。
処方箋②【運動】= 社内人材の流動化(血流のシャッフル)
同じ部署に同じメンバーが何年も固定化していると、その場所の血管はしだいに硬化していきます。
- 定期的なジョブローテーション(配置転換)を実施する。
- 部署を横断した小規模なプロジェクトチームを立ち上げる。
意図的に人や情報の動きを作ることで、組織に「新しい血」を巡らせてください。組織を「動かす」ことで、血管にしなやかさが戻ってきます。
処方箋③【禁煙・解毒】= 悪い情報(バッドニュース)の最速開示
組織にとって最大の「毒」は、悪い情報の隠蔽や報告の遅れです。
経営者や上司の皆様は、「悪い報告を誰よりも早く持ってきた社員」を絶対に怒らないでください。むしろ、「よくぞ一番に教えてくれた!」と感謝し、称賛することが重要です。
バッドニュースが迅速に上がる風通しの良さを担保することで、社内に「不満や隠蔽」というニコチンを溜め込まない健全な体質を作ることができます。
おわりに:経営者が本当に目を向けるべき「血流量」とは
組織が拡大すると、経営者はどうしても管理規程や厳格な仕組みで組織をコントロールしたくなります。もちろん仕組み化は重要ですが、ガチガチに管理を強めすぎると、血管はより細く、硬くなっていきます。
経営者やリーダーが最も重視すべきこと。
それは、単に「新しい管理ルール(血管)」を増やすことではありません。
「社内で今、情報と社員の感情(熱量)がスムーズに流れているか?」という『血流量』に意識を向けることです。
- 決裁や判断のスピードが以前より落ちていないか?
- 現場から「前例がないから」という諦めの声が増えていないか?
- 頼りにしているエース社員の顔が、疲れて曇っていないか?
財務諸表(P/LやB/S)の上では健康に見えても、組織の内側の血管がコチコチに固まっているかもしれません。
ぜひこの機会に、ご自身の組織の「血管年齢」をチェックしてみてください。
※YouTubeチャンネル「今野誠一の“組織テレビ”」でも本内容の話をしています。
↓こちらのタイトルをクリックしてぜひご覧ください。
■『【放置厳禁】あなたの会社もなっている?「組織の動脈硬化」の恐ろしさと処方箋』







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