「30人の壁」で会社が失う大切なものとは?組織拡大期を乗り切るマネジメント術

これまでポッドキャスト「組織ラジオ」で297回にわたり組織のリアルを語ってきましたが、このたびYouTubeチャンネル「組織のテレビ」を開設いたしました。

第1回目のテーマは、組織づくりの原点にして最大の難所、「30人の壁」でした。

今回のブログは、YouTubeで話した内容をBlog版にしたものです。

■さあ、ここからが本文です。

多くのベンチャー・中小企業がこの「30人」のタイミングで躓き、社内がギクシャクし始め、創業期を支えた初期メンバーが去っていく……。そんな光景を、私は何度も目にしてきました。

なぜ、この壁が生まれるのでしょうか?

そして「仕組み化すれば解決する」という、よくある勘違いの裏に潜む罠とは何なのか。今回はその本質に迫ります。

「30人の壁」の正体は、社長の「脳のキャパシティ」

よく「30人、50人、100人の壁」と言われますが、特に最初の「30人の壁」は、社長が一人で全員を見切れなくなる最初の境界線です。

これには明確な理由があります。認知科学や人類学の世界では、人間が円滑に維持できる人間関係は150人程度(ダンバー数)とされていますが、密接なマネジメントができるのはせいぜい15人程度と言われています。

  • 10〜15人まで: 特別な仕組みがなくても、社長の熱量がダイレクトに伝わり「暗黙の了解(あ・うんの呼吸)」で突き進める。
  • 30人超: 社長一人の脳という「サーバー」が情報過多でパンクする。

その結果、社長の目が届かなくなり、初期メンバーと新メンバーの間に「温度差」が生まれる。これが「30人の壁」の正体です。

「仕組み化」を進める企業が陥る、恐ろしい罠

この状況に直面すると、多くのコンサルタントやビジネス書はこうアドバイスします。

「ワンマン経営を卒業しましょう。中間管理職を置き、制度やインフラを整えて、仕組みで動く組織にシフトすべきです」

確かに、人事制度や業務システムといった「インフラ」を整えることは大切です。トラブル対応や調整ごとに追われ、肝心のお客様に向き合う時間がなくなってしまっては本末転倒だからです。

しかし、ここに極めて深刻な落とし穴が存在します。

仕組みを整え、中間管理職に現場を任せ始めると、経営者はいつの間にか「自分自身の肉声」で語ることを止めてしまうのです。

創業時の泥臭い思いや、事業にかける執念。これらを直接伝える代わりに、明文化された「企業理念」や「行動規範」という「紙」に頼るようになる。

もちろん明文化は大切です。しかし、そこに経営者の熱い体温が乗っていなければ、理念はただの「お飾り」に成り下がります。現場は熱量を失い、目の前の作業をこなすだけの「繰り返し仕事の集団」になってしまうのです。

組織を動脈硬化させる「現代のハンモックナンバー」

ここで、少し歴史の教訓を紐解いてみましょう。

旧日本海軍には「ハンモックナンバー」と呼ばれる人事制度がありました。これは士官学校を卒業した時の成績順位のことで、恐ろしいことに、この20代の頃の順位ひとつで、その後の出世スピードや最終的な役職までがほぼ決まってしまうという、極めて硬直化した仕組みでした。

実は、これと同じことが現代の会社でも起きています。

「創業期に貢献してくれたから」という理由だけで、今の事業規模・課題に適任ではない人を部長に据え続けてはいませんか?

過去の功績だけでポジションが決まり続ける状態は、まさに形を変えた「ハンモックナンバー」です。これこそが、組織の動脈硬化を引き起こす原因になります。

乗り越えるために「絶対に失ってはいけないもの」

組織が形を整え、安定ばかりを求め始めた時、それは組織の「自死」へのカウントダウンかもしれません。

成長し続けるために、絶対に失ってはいけないもの。それは——

経営者自身の、仕事と会社に対する「溢れんばかりの熱量」そのものです。

経営者には、組織の大小に関わらず「天命」があります。

  • なぜ今、自分はこの場所に立っているのか?
  • 世の中にどう貢献したいのか?

80歳を過ぎても「お客様を喜ばせたい」と新規事業に挑み続ける経営者のように、冷めることのない熱量こそが、組織に浮力を与え続けます。

私は「仕組みを作るな」と言っているのではありません。「仕組みに魂(熱量)を込めるのを止めるな」と言いたいのです。

あなたの「熱」が現場に伝わらなくなった時、せっかく作った組織の仕組みは、乗り越えるべきハードルではなく、あなた自身を閉じ込める監獄へと変わってしまいます。

おわりに:自分の「天命」を問い直す

30人の壁は、単なる「仕組み化」で乗り越えるものではありません。

「仕組みを使いこなしながら、なお、あなたの熱量を伝え続けること」でしか、本質的に乗り越えることはできないのです。

「自分の天命とは、その程度のことだったのか?」

もし最近、自分の熱量が落ちていると感じたら、ぜひ一度ご自身に問い直してみてください。

※ご興味がありましたら、こちらのYouTubeチャンネルもご覧ください。
第2回「今野誠一の“組織のテレビ”」:「30人の壁」を乗り越えようとして失ってしまうもの

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